あだな

名前は安易につけるもんじゃない。
つくづく思う。


友人の犬の名前は“ダーリン”。

毎晩のように、窓から逃げるその犬。
慌てて毎回、外に向かって叫ぶ友人。

「こらっ!ダーリン!ダーリン!
家に戻りなさいっ!」

深夜の住宅街にコダマする彼女の声。


「ひどく、気性の荒い恋人だね・・・。」と
ご近所さんは
その“ダーリン“とやらを
毎晩気の毒に思っていることだろう。


でもそれだけではない。
そのアホ犬は・・・。


「コラッ!ダーリンッ!
またこんな所におしっこして!」

こんな彼女の声も大音量で頻繁に発せられる。

「彼の方も、かなり問題ありのタイプ・・・ね。」と
ご近所さんは
そのカップルと
永遠に他人でありたいと願う日々だろう。



そんな勘違いされがちな名前は
絶対に避けたほうがいい。


が、実は私も
実家で飼っている犬のことを、
“おとこ”
と呼んでいる。

もちろん名前は別にあって、
あだ名が“おとこ”。

理由は聞かれても困る。

無意識につけてしまっているのだから・・・。



妙なあだ名をつけてしまうというのは
昔からの私の悪いクセ。
自分でも悩んでいる。


姉のことは、
始め“いっぴん”と呼んでいたのだが、
それがいつの間にか
“いっぴんかんけい”と呼ぶようになり、
今では略して
“かんけい”と呼んでいる。

お陰で、
私の友人をはじめ、
時には旦那にまでも
“かんけい”と呼ばれるようになった気の毒な姉。

名前の“いづみ”とは、
まさに何の 関係 もない
“かんけい”

そんなうまいことを
言う自分に酔いつつ、

何故“かんけい”なの?
といった類の質問だけはご遠慮願いたい。

だって、
自分でもわからない・・・。


そんな感じで、
“ぴたぱん”
“あほよう”など
本来の名前とは全く関係のない呼び名の
気の毒な人たちが周りに大勢いる。

本当、ご愁傷様である。



ちなみに私の父親は“じる”。

名前に“けん”がつくので、
“けんちん”と呼んでいたのだが、
いつのまにか、
“けんちん汁”になり、
今では
略して“じる”だ。

略して“ちんじる”としなかった
この私の賢明な判断は
評価されるに値するだろう。


もちろんこの場合も、
理由を聞くことなどタブーなのだが、

以前、父が
「何故“じる”?」
と質問する困ったさんになったことがある。


まさか、
“けんちん汁”を略した
“じる”で、
漢字で書くと
“汁”になるとは、
プライドの高い父の前で、
口が裂けても言えないと思った私。


「ジェイ・アイ・エル・エルで
“JILL”!
いわば、外国風のあだ名!」と
ウインクが似合いそうな
軽いノリでごまかした。

もちろん
“何故?”に対する答えになってないことは明白。


だが父は
それに気付かないどころか、

その“外国風”という言葉に、
ちょいと満足げだった。



そんな父で、よかった・・・

この時ばかりは、そう神に感謝した。





悪い癖、
今のところ治る見込みはない。