侵入者

その日は、とても疲れていた。

その上、靴ずれもしていて、
走るなんてもっての外。
“もう一歩も歩けない”と
心の中でつぶやきながら歩いていた。

やっと家に着いたと
フラフラしながら自宅のドアを開けようとした。


が、

開かない。


もう一度鍵を差込み、開けようとした。


が、

開かない。


おかしい。



ドアの取っ手を下に何度も下ろし
ガチャガチャいわせてみた。


が、

開かない・・・。




何か異変が起きている。



鍵屋さんを呼ぶべきか。



しかし、
こんな時に限って
「鍵を落とした時、高くついて参ったよ」
という友人の声がよみがえる。


疲れていたはずなのに、
「高くついて参ったよ」
の部分に後押しされ、
何とかドアをこじ開けようと頑張った。



もう一度ドアノブを下におろそうとした
その時、











ドアノブが下にさがらなくなった・・・。











両手で力を入れても下がらない。

鍵が開かないだけならまだしも、
ドアノブが下がらなくなるなんて。


ドアノブはさっきまで動いていたのに・・・。






テレビが壊れたら叩く主義の私は、

壊れたノブには、ぶら下がってみた。




とその時!


















「誰だっ!」
















野太い男の声がした・・・。





聞き覚えのない声。





しかも、















そのドアの、向こうから・・・。























し、侵入者だ。














あまりの恐ろしさに、
ドアノブにぶら下がっている場合じゃなくなった。




泥棒が家の中に入り込み、
私の予想外の帰宅に慌てて、
ドアの向こうで鍵が開かないようにしている。
ドアノブも動かないように手で押さえている。


ドアが開かない謎が解けた。










こういう時って、本当に頭が真っ白になる。

突然襲い掛かってきた恐怖に
どうしていいかわからない。


ドアノブにぶら下がった私の体重を
犯人はよく支えたな
・・・等、感心している場合ではない。










110番なんてすぐさま思いつかなかった。








最近の物騒な事件が頭の中をよぎり、

逃げなければ!


と思うまで、どれくらいの時間が過ぎたか
覚えていない。









逃げようとして
方向転換したその時、
















私の目に飛び込んできたものがあった。

















それは、












・・・3階を示す部屋の号数。















3?3?3?

What is “3”?


















私の部屋は3階じゃない。


















侵入しようとしていたのは私の方だった。

















「スミマセン!部屋間違えました!」
この声は、
きっとマンション中に響いたと思う。




“もう1歩も歩けない”ほどの靴擦れは、
一瞬で治った。

私って、こんなに足速かったっけ?
猛スピードで自分の部屋まで走った。



















〜想像してみた














疲れた顔の見知らぬ女から
自分の部屋のドアを
無理矢理こじ開けられそうになる心境を・・・

気がつけば
その女が
ドアノブにぶら下がっていた恐怖を・・・















通報されなくて良かった・・・