もなこ


「年をとると段々頑固になってくる」
とよく聞く。

ということは、
今までのことを打ち切って新しいことを考えるという
“頭を切り替える”ことも
年齢を重ねるにつれ難しくなってくるのだろうか・・・





先日、実家に帰ったときのこと。

母がアイスの最中を買ってきた。



「今日はアイスの モナカ があるんだよ!」
小学生がいる家じゃあるまいし、
そんなお知らせに心惹かれる人はいないはず・・・

そう、思われた母の言葉に
ウキウキが隠せない人物がいた。









父だ。





本来甘いものが嫌いなはずの父が
6個入りモナカ300円に
何故か心奪われていた。



機嫌が良かったのか・・・
はたまた
嵐の前兆なのか・・・


その後の展開を考えると、
後者が正しかったのかもしれない。




父のしゃがれた重低音が響いたのは
そのすぐ後だった。
















「も な こ をくれ!」













・・・言うまでもなく、“モナカ”の間違いだ。





母が「シメタッ!」という表情で
聞き返した。



「何?もな?もなこ?も な こ?」




父も、自信たっぷりに
繰り返した。







「“もなこ”をくれ!」






母は嬉しそうに聞き返す。


「えっ?もなこ?もーなーこ?」



正直、ちょっと鬱陶しい・・・。




父も

「も な こ!」

凝りもせず繰り返す。




母が追い討ちをかけるようにもう一度、

「何て?もーなー?」


と言うと、
父は
「こっ!」

と叫ぶ。




・・・この鬱陶しいやり取りは続いた。



母「もなこじゃなくて、もな?」
父「こっ!」
母「違う!もーなー?」
父「こっ!」
母「違う!もーなー?」
父「こっ!」
母「違うってば!もーなー?」
父「もなこっ!」






父に“こ”を疑う発想はないのか。

普通、「違う」といわれたら
別の文字を当てはめたりするものだ。


“頭を切り替える”ということは
年齢を重ねるにつれ、
やはり難しくなってくるのだろうか・・・




数分後〜



案の定、父がキレた。


キレやすさだけは 誰もが太鼓判を押す 父。
母のねちっこい質問に
これでもよく耐えた方だと思う。













「“もなこ”って言いよるやろうが!」

田舎町に怒声が響いた。






モナカ も今日から“もなこ”に
変わらざるを得ないほどの勢いだった。










その勢いに気圧されて
母は冷凍庫からその疑惑のものを取り出した。





しかし、ここからが母のお楽しみ。
正解を相手に突きつけて
ギャフンと言わせられる、
いわば、勝者の特権ともいえるひと時。
「ほらね、言ったでしょ!」
の言葉が欠かせない時間だ。


あれだけの時間揉めておいて、
あれだけ激しく怒鳴っておいて、
どんな言い訳をするのだろう



母としては今後何かで喧嘩した時は
この“もなこ”をほじくり返すという
汚い手にも使える一件。
「ごめん」だけじゃ気がすまない。




そしてついに・・・・


“モ ナ カ”


箱に書かれた文字を 誇らしげに父に見せつけた。


あれだけ“もなこ”を信じた父。
頭の切り替えができなかった父。
その発言に皆が注目した。


















「あ、モナカや」


















・・・終わった。
















母が「ほらね!・・・」と
例のお楽しみを始めようとした時には、
















既にテレビを見て笑っていた。
もう頭は切り替わっていた。












その番組、見てなかったくせに・・・
















“切り替える”能力は
まだ衰えてなかったらしい。

都合が悪い時だけは・・・