英会話


私がいけない。
私の責任だ。

すべてはあの時、
あの一言を発したがために・・・。




久々に実家で食事をとった時のこと。

母からの「果物食べる?」との問いかけに対し、
うっかり
「YES!」と言ってしまった私。


その「YES」が引き金となり
正味10分にも及ぶ
父と母による英会話が始まった。
しかも、超我流の・・・。

まず母が、果物を食べると言った私に
「グレープフルーツ!グレープフルーツ!」
と言いながら、

”巨峰”を差し出した。

まずは軽い詐欺である。



そして、父に
「何か飲む?」との意味で

「ウーロンティー?」
と尋ねた母。

それに対し
「オーノー!オーノー!グリーンティー!」
と答えた父。

どうやら彼の中では、
“NO“の前には
「オー」が付くルールらしい。



すると母が突然、
「スピード?スピード?」
と言い始めた。

何のことやら訳のわからない私達。

怪訝そうな顔をしていると、
観念した母は
「イ マ ス グ ノ ミ マ ス カ?」

と何故か片言の口調で
母オリジナル英語の訳を教えてくれた。




そんな母に触発され、
父も負けじと叫び始めた。

前後の会話と何の繋がりもなく、

「アイアム ア マン! アイアム ア マン!」

と・・・。

無精ひげに毛虫眉、
おまけに坊主頭の57歳。

女性と間違う人がいたら
是非、教えていただきたい。



そんなこんなのやり取りで、
若き日のできの悪さを
娘の前で露呈した2人。

しかし、本人達はご満悦。
「英会話は面白いね♪」
と笑みを浮かべる。

「えっ?今のが、英会話?」
と言いたいのを堪え、
温かく見守った私。

しかしその直後、
とんでもない方向に会話は発展した。





『留学生を我が家にホームステイさせようか?』

目を輝かせながら放った
父の一言だった・・・。


自分の性別ばかり主張するファーザーと
自信満々で間違った英語を使うマザー。

そんな2人のもとに
万が一、
外国人がホームステイすることになったら・・・。



明らかにその留学生が気の毒である。



しかし目を輝かせた父の前では、

まだ見ぬ留学生の健闘を祈ることしか

その時の私にはできなかった・・・。