世紀

あれは2000年のことだった。

3年前の1本の電話。


『今、どうしても分からないことがあって…』
東京にいる友人からだ。

何でも、彼と2人で話し合ってるのだが、
意見が分かれて揉めている、とのこと。

私でよければ・・・、と傾けた耳を
私はすぐさま疑うことになる。


彼女らの疑問は、
私の想像を遥かに越えるものだった。

何時間もの間、
当時21歳の男女が2人して
頭を抱えていた難問は、


「今、何世紀?」

であった・・・。


2000年から新世紀になるのか、
2001年から新世紀になるのか
分からなかったらしい。


「もう今は新世紀になってる」と言い張る彼に、
「いや、来年からが新世紀だ」と教えた彼女。

「じゃあ、新世紀は何世紀?」と尋ねる彼に、
「新世紀は20世紀!」と言い切る彼女。

「だとすると、今は何世紀?」と疑う彼に、
「今は19世紀じゃない?」と答えた彼女。


しかし今が19世紀というのには、
さすがの彼も疑問を覚えた。

そこから、どうも戦いの火蓋は切られたようだ。


受話器からもれてくる鼻息の荒さに
争いの勢いを悟った私。

丁寧に‘世紀’について説明をした後、
慎重に言葉を選びながら、
「この一戦は引き分けだ」
との判定を下した。



〜それから3年〜

その彼女と
つい先日、遊んでいた時のこと。


この一悶着を思い出し、
私は思わず大笑いした。

あの時は馬鹿だったねえ・・・
とお腹を抱え、
彼女も負けずに大笑いした。



笑いもだいぶ収まって
呼吸も整った頃、

彼女が真顔で一言・・・


『で、来年は何世紀なの?』




今まで私が話したことは
何だったのだろう?
つい先ほど、彼女は何に対して
大笑いしたのだろう?


色んな疑問が渦巻く中、
彼女のことを見放せない私。



伝わらないことは覚悟の上で
‘世紀’についてまた説明するか、

生きてる間は21世紀だから
21という数字を無理矢理叩き込ませるか、

毎年、今は21世紀です、と教えていくか、


今年25歳になる彼女を前にして
心の中は複雑だった・・・・。