人による

つくづく思う。
便利な世の中だ。

例えば携帯電話。
カメラやナビゲーションのシステム付きというのは
もう常識らしい。

今や、
録画したテレビ番組を再生するという機能も
携帯電話についている。
これはつまり、
移動しながらでも、
ビデオを見ることができるということだ!


そんなにビデオが見たいわけではないが、
「何かをしながら別の作業も同時にできる」
この言葉には、
時間の有効活用という点でいつも魅かれてしまう。


“何かをしながら・・・・”
といったもので代表的なのは、
「ドライブスルー」。

ファストフード店などで
車を降りずに、
ドライブしながら商品を購入することができるシステム。
何年も前から便利な仕組みとしてすっかり定着している。


しかし、この「ドライブスルー」という言葉を耳にするたびに
思い出すことがある。

随分前のことだが、忘れもしない・・・
家族で某ハンバーガーショップのドライブスルーを利用した時のこと。



「いらっしゃいませ、ご注文をどうぞ!」
スピーカーから聞こえる溌剌としたお姉さんの声。

「うーん・・・」
何を食べようか皆迷っている中、
“優柔不断”という言葉とは縁遠い九州男児の父が
第一声を放った。

運転席から低い声を響かせながら、
マイクに向かって一言。



「わしは、パンでええ。」



・・・静まり返った。
いつもなら注文を繰り返すお姉さんも、黙った。


呆気にとられ、誰一人としてすぐさま突っ込めなかった。


そんな中、静寂を破ったのは、ウン十年連れ添った母だった。

助手席から慌てて身を乗り出し、
マイクに近づいて一言。



「あ、あたしも。」



・・・凍りついた。
あんなに元気だったお姉さんの声など、聞こえる訳ない。




便利なはずのドライブスルー。

「時間が短縮できる」なんてうたい文句は、
戦後まもなく生を享けた
我が家の2人には通用しなかった。



「ココは、いろんなパンがあるお店でね・・・」
「そのパンは、“ハンバーガー”という名前でね・・・」


注文に行き着くまでにどれほどの時間を要したかは
ご想像にお任せしたい。