正義の味方

ゴキブリは嫌い。
多くの女性は、口をそろえて言う。
もちろん私もその一人。
ゴキブリとは比べ物にならないほど、どっしりとした体つきのくせに、
「キャーキャー!」と
その時ばかりは
自分の音域を遥かに超えたブリッコ声がでる。

しかし、こんな私も
時には勇敢になる!
それは、ゴキブリ発生時,
男女問わず、その場にいる人すべてが
ゴキブリ嫌いのとき。

「皆を守らなければ!」
という感情が生まれ、
「大丈夫,私に任せて!」
と一人で果敢にゴキブリと戦ってきた。


「周りの人より自分は強いのだから!」
といった、とんでもない勘違いが、
私の背中を押す。
そして‘自称’正義の味方の自分に酔う。

「弱い人を守らねば!」
この性格は,どうやら母親譲り。


母親と街を歩く時、
「お母さん荷物持つよ」
必ず声を掛ける。
すると、
「いや,大丈夫。梢は大丈夫?」
と言う母。

なんて美しい親子愛・・・。


でもそれは、ここで終わっていればの話。
しかしお互いに、相手は自分よりもか弱いと思っているから、
そうはいかない!

「お母さんに、荷物を渡しなさい。」
母は,私のバックを取り上げる。

「大丈夫って!!!」
とすかさず取り返す私。
と同時に母の荷物も取る。

「いいからっ!」
とまた母から、荷物を取られる。

「お母さんは疲れやすいでしょっ!」
と力ずくで、また取り返す。

「まだ若いよっ!」
とまた、取られる。

「私のほうが力あるから!」
と隙を見て取り返しても、

「いーや、梢より力持ちよ!」
といってまた荷物を取ろうとする母。

「ちょっと、やめてよっ!!!」
私も必死で、荷物を離さない。


気付けば
醜い荷物の取り合い。


相手を思いやって始まったのに、
終いにはお互いに腹が立ってしょうがない・・・。

通行人の呆れた視線・・・。


自称正義の味方は、一人に限る・・・。