バイキング

姉と夫の義兄と3人でビュッフェに行った時のことである。

お店に入るや否や、早く注文をっっ!
と言わんばかりに店員を目で追う。
そして、「ビュッフェ3つ」と注文を言い終わるのと同時に席を立つ。
お店の中はまさに戦場。

私と姉の間には言葉を掛け合わなくとも、役割分担ができている。
姉がスープコーナーに向かったら、私はサラダへ。

テキパキとした動きと、臨機応変の対応。
普段の私達からは、想像を絶する機敏さである。

両手のお皿には今にも溢れんばかりの量の食べ物。
それでも、まだまだといったような欲深い表情で
目をぎらつかせている姉と私。
自分達の醜さに気付かず、
むしろここでは優秀な戦士だと言わんばかりにテーブルに戻る。
が、しかしそこには私たちにとって信じられない光景が!!!

義兄である。
席を離れず、優雅にタバコを吸っているではないかっ。
戦場でこんなにものんびりしているなんて・・・。
「あなたは、ドリンクの担当でしょっっ!」
私たちは、言葉にこそしなかったものの、
もちろん彼にも役割分担は暗黙の了解だと思っていた。

バイキングにおける心得が何もわかっていないと、
瞬時に彼に対しての期待を捨てた姉と私。
失われた一人分の戦力を補うため、
さらに焦って動き回った。


デモ、ちょっとまてよ?
時間制限も特にない。
料理もまだ十分残っている。
なのになぜこんなに焦っているのだろう???

優雅な義兄の背後で、必死に動き回る自分達って
ちょいと、お馬鹿さん?


食べ放題という言葉にとらわれすぎて、
頭の中では「モトを取る!」という言葉のみが響いていた。

ゆっくりと楽しい話もせずに
夢中で食べることのみに専念。

自分の限界以上に食べ物を詰め込み、
お店を出た後の体調は絶不調。

その上、また太ってしまったと
自己嫌悪に苦しむ。

終いにはダイエットグッズに手を出し、
かえって高くついている。

これがいつもの流れだった。
いいことなしじゃないかっ!



初めは「戦力にならないっ」
といった冷ややかな視線を2人から浴びていた義兄は、
お店を出るころにはすっかり
「育ちがよく、思慮分別のある人!」
と大変崇められていた・・・。