青春

試合は9回裏。
福岡工業の攻撃。
高校野球、福岡県大会決勝。
福岡工業側のスタンドにいる野球部員の表情を見ていた。

10−1で点差は9点。
相手側の九州高校に大幅にリードされている。

(このイニングで、絶対に9点取り返す!)
誰もが、そう信じているように見えた。
「大きな声出そうぜ!」
応援にもますます気合が入る。
グランドの選手に届けと、身を乗り出して声をかけるスタンドの部員達。

ゲームはすでに2アウト。

3〜4人が高さ1メートルほどの台の上に立ち、応援をはじめた。
すでにもうガラガラになった喉から絞り出した声。
彼らの心の底からの思いが、胸に響いて痛かった。
試合前の、明るくひょうきんな彼らとは思えないほどの真剣な表情。
彼らの目の先にはただひとつ。
バッターボックスに立った仲間を、祈るように見つめていた。
彼らも一緒にプレーしていた。


試合終了・・・。

その瞬間、すべてが止まった。
応援していた生徒の体が、あちらこちらで崩れ落ちる。
しかし、連日の練習と応援で真っ黒に日焼けした3年の野球部員の体だけは、
ピクリとも動かなかった。
汗を拭う暇もなく、応援しつづけた彼ら。
その顔から汗にまぎれて流れる涙をも、拭うことはしなかった。
彼らも今、グラウンドに立っている。
グラウンドの選手達と同じ心境で、自分を奮い立たせ、最後の挨拶に参加しているのだ。
同時に、彼らの最後の夏をもかみ締めているようだった。


すべて終了後、
私にまで「ありがとうございました」と声を掛けてくれた部員。
前日は相手チームの研究で、ほとんど寝ていないという。
その真っ赤な目から、流れ落ちそうな涙をこらえて見せてくれた笑顔が、
今も胸に焼き付いて離れない・・・。




今までの練習の辛さを忘れ、
そしてこの日の暑さをも忘れているかのように応援する彼らを見つめている間、
ついでに私も・・・・仕事を忘れていた。
おっと、いかんいかん!!!