大きな女性

大きな女性を見た。

非常に失礼な話だが、
私が今まで会った女性の中で
最も大きかった。
縦にはもちろん横にも大きかった。
さらに態度も・・・

大きかった。





母親らしき人と2人連れのその女性は
うどん屋さんに入るや否や、
客の視線を一気に集めた。



“あまり他人をじろじろ見るもんじゃない”
分かっていても
ついつい
その女性の大きさに目が釘付けになった。


どこに座るんだろう・・・
そんなこと余計なお世話だが、
「まさか、あそこには座らないよ、ね・・・」
そう思うテーブルが1つあった。

椅子が壊れそうだとか、
そんな失礼な話じゃない。

店内にただ一つだけ
片付け前の汚れたテーブルがあったのだ。

皆がそこを避けて座っていた。



しかし、悪い予感は的中・・・。


よりによって女性は
そのテーブルを選んだ。



〜それが、悲劇の始まりだった〜





「片付けてっ!」


テーブルにつくや否や、
文句をいい始めたその女性。



(そこに座らなきゃいいのに・・・)
心の中で思ったが
私は声に出せなかった。






暫くして、女性の怒りはまた爆発した。




「店長を呼んでっ!」


できれば無視していたかったが、
振り向かずにはいられないほどの大声だった。




・・・コップに口紅の痕があったらしい。



(セルフサービスなのだから、
別のコップを選べばいいのに・・・)
心の中でアドバイスしたが、
私は声に出せなかった。







暫くして、女性の怒りはまた爆発した。




「違う!“うどんと天丼のセット”よ!」


これ以上見てはいけないと思ったが、
次は何?と振り返らずにはいられなかった。








・・・“ごぼう天うどん”が運ばれてきたらしい。



(よりによって
そのテーブルに運ばなくてもいいのに・・・)
心の中で呆れたが
私は声に出せなかった。



「ふざけている!馬鹿にしている!」
ごぼう天うどん”が姿を消した後も
女性の怒りは収まらなかった。






そして、ついに“うどんと天丼のセット”が
女性の元に運ばれてきた。


これでもう大丈夫だと
誰もがほっと胸をなでおろした直後、




怒りは最高潮に達した。







「ちょっと!これ何っ?!」


地響きすら感じさせる大声は、
否応なしに皆を振り向かせた。










・・・小蝿 が浮いていたらしい。







(コバエよ、
そこに行くくらいなら
私のうどんで泳いでくれ・・・)
心の中で叫んだが
私は声に出せなかった。




「こんな店、もう帰ろう!」
ついに席を立った大きな女性。
「いいじゃない、もう・・・」
必死で引き止める連れの女性。


“あまり他人をじろじろ見るもんじゃない”
そんなこと、知ったこっちゃない。

うどんが延びるのも気にせず
誰もが、連れの女性を応援した。



そんな応援の甲斐あってか
最終的には
大きな女性が折れた。



ただ、席に座って食べ始めた後も、
怒りはすぐに収まるはずがない。


お店への文句が
大音量のBGMとして
延々と流れ続けた。


それだけ文句を言いながら食べれば、
さぞかし美味しくないだろう・・・
店中がそう感じたに違いない。





一体、
どんな顔して食べているのだろう?



この期に及んでも
そんな思いでいっぱいになる
自分のやんちゃ盛りの好奇心を憎んだ。


睨まれるかもしれない。
絡まれるかもしれない。
でも、どうしても見たい。


ちょっとだけ、
ちょっとだけ・・・

勇気を出して
振り返った私の目に飛び込んできたのは、










すさまじい勢いの食べっぷりだった・・・。



正直・・・
ちょっと、美味しそうに見えた。